財政危機が米欧関係を分断する!

ハーバードからアメリカ最古で最強のシンクタンクといわれている、ランド研究所に移籍。

アメリカの世界戦略を練る専門家たちと議論できる刺激的な毎日です。議論の刺激が増しているのは来年が大きな転換期であるからです。

2012年はアメリカ、ロシアで大統領選挙、中国の政権交代等があります。これに欧州財政危機が絡みます。
これから来年にかけて、世界地図が大きく塗り替えられるかもしれません。

その主役は中国。欧米財政危機で欧州と米国を分断し、中国が欧州を取り込むのではないでしょうか?アメリカの危機感は増します。

欧州の中でも中国と急接近を見せるのがドイツです。ドイツと中国の関係が欧米関係を左右するだろう。
中国はアフリカや南米で見せつけている存在感の高まりを、欧州の危機に乗じて欧州で再現しようとしています。

一方、アメリカは、リビア作戦を巡って欧州諸国と衝突。NATOの足並みが乱れ、米国は“同じ財政落第生”である欧州についていらだちを見せています。
中でもNATO“タダ乗り”常連、ドイツに敵意を表します。

6月下旬、中国の温家宝首相が英国、ハンガリー、ドイツ等欧州を訪問しました。
中でもドイツでは大歓待を受けたといいます。温首相はウルフ大統領とも会談。

メルケル首相とは共に第6回中独経済・技術フォーラムに出席。自動車、化学、機械、電子・電気器具、投資等20近くの二国間協力に締結。契約総額は150億ドルを超えました。

また両国は、貿易・投資拡大の促進でも一致。2015年をめどに二国間貿易額2800億ドル達成を目指すことでも合意しました。

ドイツと中国は、電気自動車開発事業の戦略的パートナーシップを構築。加えて、新エネルギー、省エネ、環境保護などの分野で協力拡大も宣言しました。

中国にとってドイツは欧州最大の貿易相手国。最大の直接投資・技術の導入元でもあります。

ドイツの中国への想いが現れたものなのではないでしょうか。
ドイツでは二国間経済協力の推進ばかりでなく、欧州財政危機救済について踏み込んだ意見交換があったのではないかと言われています。

欧州財政危機の救世主として注目を集めるドイツ。

しかし、ドイツだけでは欧州を救うことは難しい。

EUで最大の財政余力を持つドイツにしても、通年で3%超の財政赤字(対GDP比率)を記録しています。欧州を救える財政余力を持つ国は中国しかないでしょう。

中国財政省によると、本年度上期の財政黒字は1兆2500億元(約15兆2125億円)。この黒字幅は上期のGDPの6.1%に相当します。

世界最大の財政力です。欧州再建のために泥をかぶらねばならないドイツからみたら、中国ほど頼もしい相手はいないでしょう。

一方のアメリカはドイツを手厳しく批判しています。

6月10日のニューヨーク・タイムズの社説は退任を控えたゲーツ国防長官の演説を取り上げていました。現職で無くなるゲーツ氏は遠慮のないドイツ・NATO批判を展開。米独間の確執の根深さをあからさまにしました。

ゲーツ氏が批判したのは欧州の“タダ乗り問題”。かつて米国はNATOの軍事支出の50%を負担してきました。
「それが今日では75%になっている!」というのです。

欧州諸国がアメリカのコストでNATOの傘の下に安全を享受する一方、防衛費を一方的に削減。
「米国は、これ以上NATOの戦闘任務やコストを過分に負担するようなことはできない」とゲーツ前国防長官は吠えたのです。

象徴的だったのが、今回のリビア作戦。ゲーツ前長官は「加盟28カ国中、軍事作戦に参加したのは半分以下。

空爆に参加したのは3分の1以下。NATOの恩恵の最大享受国であるドイツに至っては何の貢献もしていない!」とストレートにドイツに怒りをぶつけました。「金の切れ目が縁の切れ目」といわんばかりです。

「NATOの状況は欧州加盟国が思っているよりもはるかに深刻。欧州の加盟国が軍事支出を増やさなければ、先行きは暗い。NATOは意義のない存在になりかねない」とゲーツ氏は結びます。

しかしながら、欧州の危機はこれからです。欧州各国は、財政再建のためにさらに大きく国防費を削減せざるを得ない。N
ATOはさらに力を失うでしょう。米国も財政再建のために国防費を大きくカットせざるを得ません。

欧州はもちろん、アジアでも地盤沈下はさけられない。
ここを狙うのが中国です。

財政の危機が、外交安全保障の地図を大きく塗り替えようとしています。ただ、中国には外交安全保障上のドクトリンがありません。どんな理念や哲学で仲間を造り、連携をしていくのでしょうか?

とりあえず、唯一最大の国家目標である“経済発展”のために全ての外交資源を活用していくでしょう。そして、欧米との相対的な軍事力格差の是正に動くのではないでしょうか。

中国は、欧州を救う代わりに、欧州に中国への武器輸出を再開させるかもしれません。
GPS等、欧州の独自の軍事関連技術開発について中国に対して門戸を開かせるかもしれません。

軍事以外でも欧州、特にドイツが持つ優れた製造技術、代替エネルギー・省エネ関連技術、食糧生産技術を狙っているでしょう。
アフリカの旧宗主国である欧州諸国を通じてさらにアフリカの利権を漁っていく可能性も高いです。

先週のFT(英ファイナンシャルタイムズ紙)は「オバマとメルケルは奇妙なカップル」と題して、米独のリーダーを並べて論説を展開。「二人はリーダーというより名門大学のゼミ仲間」とFTは評します。

「弁護士(オバマ)と物理学者(メルケル)。二人ともどこまでも思慮深く、考え抜くのが好きです。
でも慎重すぎて行動に移しません。二人とも真のリーダーシップを発揮できていない」とその共通点を痛烈に批判。

慎重すぎる二人が、思慮を重ねた上、最後に決裂の行動を起こすのでしょうか?

一方、米国を代表する外交専門誌フォーリンアフェアーズでは「アメリカの経済政策はドイツを見習え」とドイツを持ち上げます。
「財政・金融政策を打ち尽くしたアメリカは今こそ貿易立国ドイツを見習い、国家主導で外需を取りに行くべき」と論じます。

NATOタダ乗りの件は置いておいて、大事な盟友に敬意を表して学ぼうと呼びかけます。

共通の理念はあるが、お金がないアメリカ。
共通の理念はないが、お金がある中国。
ドイツを筆頭に、欧州はどのように外交安全保障上の舵を切っていくのか?目が離せません。

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